開催日時:2016年9月28日(水)15:00~17:30
会場:JICA市ヶ谷ビル(東京都新宿区)
主催:森から世界を変えるREDD+プラットフォーム ビジネスモデル分科会 2016年度 第1回勉強会
テーマ:「REDD+ for Green Economy」
概要・プログラムはこちら

【Summary】

2015年に採択された「パリ協定」の後押しを得て、REDD+の活動はますます拡大していくことが予想されます。7月15日に環境省・JICAが共催したREDD+国際シンポジウム(ASEAN 6か国参加)において、"REDD+ for Green Economy"の考え方や理念が議論・共有されました。

これまでREDD+は、「森林を守ることによる地球温暖化対策」を中心的な課題として取り組んできましたが、そこに経済的なアプローチ、特に途上国の持続可能な開発を実現する「Green Economy(グリーン経済)」の視点が求められます。森林再生・保全事業は重要ですが、経済性がなければ事業を拡大させることはできません。森林をもつ途上国にとっても、また、そこで森林保全事業を推進する企業にとってもメリットがあってこそ、事業は成り立つのです。

「REDD+ for Green Economy」は民間企業にとって新しいビジネスチャンスにつながる可能性があり、また、途上国にとっては雇用創出などの地域経済の発展につながる可能性があります。それを実現するために民間経営のノウハウや、消費者目線が求められています。

また、事業を推進するためには、規範づくり、事業実施国の理解・協力、事業活性化のための表彰制度づくりなども重要です。こうした幅広い事業を円滑に進めるには、官民の連携が欠かせません。

今般のビジネスモデル分科会の2016年度第1回勉強会では、「Green Economy」の具体的な事例の紹介とその方策を議論することにしました。

勉強会では、まず、これまでREDD+事業に携わってきた3名が「Green Economy」への関心が高まっている途上国の現状を報告しました。続いて、現在、途上国でビジネスを実践している民間企業3社が、それぞれの事業について講演しました。最後のパネルディスカッションでは、「REDD+ for Green Economy」をどう進めていくかが議論され、今後の課題と期待が共有されました。

【Report】

当日のポイントを、プログラムに沿ってご紹介します。

ビジネスモデル分科会のこれまでの振り返りと本年度の活動計画、国際的なREDD+の動向説明

矢野雅人氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社:ビジネスモデル分科会幹事)

最初に、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の矢野雅人氏より、『ビジネスモデル分科会のこれまでの振り返りと本年度の活動計画、国際的なREDD+の動向説明』がありました。

「森林から世界を変えるREDD+プラットフォーム」は2014年11月に設立。今日までの約2年間で、REDD+を巡る環境は大きく変わってきました。特に2015年に採択された「パリ協定」には、REDD+の実施と支援を推奨すると明記されており、今後のREDD+の拡大が見込まれます。

これまで勉強会では、その時々の外部環境の変化を鑑みながら議論を重ねてきましたが、今回の勉強会のテーマは『REDD+ for Green Economy』としました。

REDD+が準備段階を終え、いよいよ本格的に動き出そうとしている今、REDD+につながる可能性のある途上国ビジネスについて幅広く検討する必要があります。REDD+はこれまで森林保全を出発点に議論されてきましたが、本日は経済的アプローチの必要性から、途上国ビジネスを軸にREDD+を議論しようと思います。

講演
途上国で関心高まる「グリーン・エコノミー」

長田稔秋氏(経済産業省地球環境連携室)

経済産業省地球環境連携室の長田稔秋氏は、グリーン・エコノミーの実現に向けた、『経済産業省における取り組み』として、これまでに実施した二国間クレジット(JCM)と温暖化適応ビジネスを紹介しました。

JCM関連事業は、平成26年度にインドネシアで6件、平成27年にベトナムで1件の実施可能性に関する調査(FS)が実施され、今後のプロジェクトに生かすべき多くの教訓を得ました。

途上国の多くが森林保全の重要性を理解しているものの、森林資源が周辺住民の生活手段となっているため、実際の森林保全に着手できないという事情があります。その解決には、代替生活手段の提供が必須です。また、プロジェクトを推進していく上では、ほかにもパートナー国側の法規制に従った手続きや許認可制度を把握すること、地域コミュニティの理解・協力を得ること、活動資金を確保することが重要です。

一方、温暖化適応ビジネスについては、その経済効果は50兆円とも言われていますが、現状は、いまだ、どのような案件が温暖化適応ビジネスになり得るのかを模索している段階です。近く検討結果を皆様に報告したい考えです。

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宍戸健一氏(JICA地球環境部森林・自然環境グループ審議役兼次長)

独立行政法人 国際協力機構(JICA)の宍戸健一氏は、『最近のトレンドとJICAの取り組み』を紹介するとともに、7月15日に行われた国際シンポジウム『REDD+の実施に向けた日本の貢献』の内容を報告しました。

G7環境大臣会合では、生物多様性保全や気候変動関連施策において、それをビジネスとするアプローチが必要であると結論づけられました。同様にREDD+にも、単に地球温暖化対策として森林を守るというだけでなく、村落開発も同時に実現するビジネスモデルを示すことが求められており、これが「グリーン・エコノミー」であります。

兼松株式会社が途上国で展開したプロジェクトは、途上国にとっては経済効果と雇用創出という、民間企業にとってはビジネスチャンスというメリットがあり、両者にとって魅力的な取り組みとなりました。今後、こうした取り組みが次々に生まれることが理想で、民間企業から提案があることを期待しています。ご提案には全面的に協力し、官民が連携して事業を進めていきたいと考えています。

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堀正彦氏(JIFPRO)

公益財団法人 国際緑化推進センターの堀正彦氏は、『森からのめぐみをビジネスに』と題して、同センターで進めているBFPRO(Business of Forest Products)事業を紹介しました。

正式名「途上国持続可能な森林経営推進事業」(林野庁補助事業)は、森林の新たな経済価値を見出し、それを新たなビジネスにつなげることを目的にしています。ここから生みだされた富は、住民に分配されるので、従来、生計活動として行われていた森林破壊を防ぐことができるのです。

森林資源とビジネスのマッチングには、まず、「どこに、どのような資源があるのか」、「どこで、誰に、どんな資源が必要とされているか」といった情報を集めなければなりません。そこで、森林にどのような低利用・未利用の資源が残されているのかを明らかにするために、2年間にわたり地道な調査を行ってきました。調査した森林資源の中には、ヤマハが楽器用素材として使うアフリカン・ブラックウッドや、園芸資材に利用されているココピート、健康食品として期待されるサトウヤシなどがあり、今後ビジネスへと成長することが期待されます。

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事例紹介
新たなグリーンビジネスモデルの芽

今後のREDD+グリーン・エコノミーのヒントとなる、途上国における民間事業3例が紹介されました。

圓谷浩之氏(木炭輸入商社(株)恵山通商)

木炭輸入商社(株)恵山通商の圓谷浩之氏は、『ラオスからの業務木炭』について講演しました。

(株)恵山通商は、日本の木炭業者の輸入窓口となっている商社です。現在、日本の木炭の多くはラオスから輸入されています。恵山通商は木炭を輸入するだけでなく、ラオス国内で苗畑をつくったり、分収林の話し合いに参加したりするなど、木炭の永続的な安定供給を目指した取り組みも行っています。2017年には、植林NPO法人の立ち上げを予定しているほか、すでにラオス白炭1kg当たり1円の寄付を集める仕組みをつくっています。

組織的にも資金的にもODAなどに頼らずに事業を展開できる体制が整いつつあります。こうして木炭の安定供給に積極的に取り組むのは、かつて中国からの供給量が激減し、木炭業界が混乱したという苦い経験があるためです。木炭業界は自立した事業を目指していますが、その一方で、植林を行えばカーボンニュートラルであるという木炭の利点を、REDD+グリーン・エコノミーに生かせないかと、新しいビジネスの創出に期待もしています。

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南原隆之介氏(Value Frontier株式会社)

Value Frontier 株式会社の南原隆之介氏は、生物多様性の豊かな森林の再生を目指した『フォレストーリー・プロジェクト』について紹介しました。

Value Frontier 株式会社は、JICA事業の海外展開や、経済産業省や環境省の地球温暖化に関係する案件などを専門に扱うコンサルティング会社です。それとは別に自社でも、フィリピンの森林再生のために「フォレストーリー・プロジェクト」を行っています。

具体的には、国際NGOバードライフ・インターナショナルが選んだ、生物多様性の高い重点保全エリア周辺の荒廃地で、森林の再生と保全に取り組んでいます。プロジェクトを進めるに当たっては、現地の森林再生に長く取り組んでいるハリボン協会と協力関係を築いているほか、企業や個人から集めた協賛金の一部をコミュニティ基金として植林の成果に応じて提供して、住民の生計向上のために活用するなど、事業を円滑に進めるための工夫をしてきました。その結果、フィリピンミンドロ島とルソン島に合わせて26haの植林に成功しています。

森林再生・保全エリアの拡大と、プロジェクト終了後の森林保全の継続が今後の課題であり、REDD+やJCMとの連携も視野に入れています。

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小野邦彦氏(株式会社坂ノ途中 代表取締役)

株式会社坂ノ途中 代表取締役の小野邦彦氏は、『坂ノ途中の自己紹介』と題して、同社の事業とコンセプトについて話しました。

株式会社坂ノ途中は、国内で野菜を販売しています。その特徴は、取引先農家の9割が新規就農者だということです。こうした新しい農家の場合、生産量が少なくしかも不安定なのですが、その一方で、農業に対する志の高さから、野菜の品質は高く美味しいのです。

坂ノ途中では、新規農家を集めてグループをつくることで、生産量の不安定性を克服する努力を重ね、ネット通販による野菜の定期宅配事業を立ち上げました。野菜のバリエーションの多さが消費者に喜ばれ、高いお客様満足度を得ることが出来ました。同様の事業を海外でも始めており、その地域の気候や土質にあった作物をつくってもらい、理解のある日本の消費者に提供しています。

最近では、ラオス北部の焼畑農業の適正化を図るための新たな取り組みを提案し、経済産業省のFSに採択されました。ここでは収益性の高いコーヒーづくりを森林で行いながら、ラオスの農業の知恵を学びたいと考えています。

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パネルディスカッション

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の矢野雅人氏の進行の下、以下の5つの質問を基にディスカッションが行われました。

1. グリーン・エコノミーの今後の見通しは?
2. 期待される本業上のメリットは?
3. ビジネスを円滑に進める上での工夫?
4. 社内や社外(投資家・消費者)への有効なアピール方法とそれに対する反応は?
5. REDD+とビジネスを統合していく上での処方箋は?

1.グリーン・エコノミーの今後の見通しは?

矢野:途上国の事業に新たに参入するのはリスクが高い。今後、経験の少ない中小企業が参入するとき、どのような支援が受けられるか。

長田:経産省という立場からできることは、足元を固めること。例えば、国際的な資金を活用できるようにする。ニーズもネタも技術もあるが、人材がいない、どう事業化すればいいかわからないというケースに対しては、人材育成やビジネスマッチングを行う。そのほか、表彰制度を設けるなどでサポートできると思っている。

矢野:途上国側のグリーン・エコノミーに対する期待は?

宍戸:現地の置かれた事情と、民間企業のノウハウといった情報収集が足りていない。一方で、民間連携事業では、いろいろな事業の提案が上がっているようだが、それを実際の事業に結びつけるのに、今後、各関係機関が密に連携していくことが求められる。

2. 期待される本業上のメリットは?

圓谷:ラオスでは植林しない人には木炭を輸出させないという首相令が出され、木炭輸出者には植林が義務付けられているので、植林することが正にメリットとなっている。

南原:プロジェクトを始めた当初の目的は、排出権取引の事業化だった。そこから、目に見える環境活動をしたいということになり、植林を始めた。本業上のメリットとしては、いまでも排出権取引を実現して収益を上げたいと思っている。

小野:企業価値の向上だと思う。坂ノ途中の場合は、海外での事業を通じて、自分たちのスタンス「野菜を売るのは手段であって、目的は環境負荷の小さい社会を目指すこと」だというのを具体的な形で示している。それは、本業を伸ばすために必要なものだと思う。ただ、それが押し付けがましくなってはいけないし、消費者にとっては品質が良いことが第一義であると思っている。

3. ビジネスを円滑に進める上での工夫?

矢野:途上国ビジネスの難しさ。いかに地域を理解し、巻き込んでいくか。ビジネスには生産性も大事だと思うが、その点の工夫はあるか?

圓谷:長田さんの発表で紹介されたFSから得た教訓の中に、事業に必要な許認可の把握とあった。恵山通商が行っているラオスでの木炭ビジネスの場合でも、その環境事業を一歩前進させようとすれば、誰に許認可をもらうのか、その実態の把握が重要だ。

南原:フィリピンでも同様で、協力を得たハリボン協会は現地で森林保全をやっているため、地方政府や中央の環境天然資源省に対して、発言権があった。ハリボン協会の方針に、こちらが乗ることが、事業が円滑に進んでいる理由だと思っている。

小野:海外事業は円滑には進んでいない。ただ、とにかく、やってみる、行ってみるといった中から、偶然の出会いに支えられた。一方、日本では、伝えて共感して買ってもらうということを徹底している。消費者に納得いただける品質を維持しつつ、しかも現地貢献性があると伝える。

矢崎:兼松株式会社で、環境プロジェクトをつくる仕事をしている。本業上のメリットとしては、兼松は歴史的に原油や重油の取引に関わっている。お客様は大量のCO2を排出しており、それを削減するニーズは必ずある。それをサポートしていくことを、将来的に考えている。円滑に進める工夫については、JCM制度を利用したREDD+事業を行った経験から、相手国の了解・許認可を得ること、ニーズを把握することだと感じている。ただし、REDD+事業は、やるべきことの幅が広すぎて、民間企業だけで実施するのは負担が大きい。

矢崎慎介氏(兼松株式会社)

:圓谷さん、小野さんから指摘があったように「環境保全に貢献する」というだけでは、日本でビジネスにするのは難しいように思う。ただ、REDD+という取り組みに関しては、特別に需要が生まれる可能性を感じる。生産規模を確保できなければビジネスにはなりえないという観点も必要。

4. 社内や社外(投資家・消費者)への有効なアピール方法とそれに対する反応は?

矢崎:事業の継続には、1人でも経営人の理解を得ることが重要だ。地道なアピールにより、ようやくアニュアルレポートにインドネシアでの取り組みが紹介された。宣伝・広告の部署がCSRとしてREDD+に興味を持っているということを利用するのも大切。

小野:坂ノ途中の事業では、外部の人の応援が必要だ。良質の野菜を提供するのは当たり前。その上で、社会貢献性の高い商品に対する、潜在的なニーズを掘り起こさなくてはならないと考えている。そのためには、ネット通販だけではだめで、偶然の出会いを求め出店をしている。

南原:個人の方に協賛をいただいたときに、お礼の手書きの手紙と証書を送っている。それで、リピートしてくれる人もいる。

圓谷:ラオスではかつて木炭は、その供給が危ぶまれた。これをきっかけに、植林をしなくては木炭業界が成り立たないという共通の認識が生まれたため、社内外で植林に関する疑問の声は上がらない。ただし、天然林を使った場合のコストより安いことが求められている。REDD+は税制の優遇措置につながるのではないか。

5. REDD+とビジネスを統合していく上での処方箋は?

小野:ここまでの議論で、REDD+には日本全体でチームを組むべき、途上国側のニーズを把握すべきといった事業を推進する上でのポイントが出てきたが、REDD+とビジネスを統合していく上での処方箋はあるのか?

長田:処方箋のようなものは思いつかないが、例えば、JETROのように多くのビジネスマッチングを手がけている機関に、キーパーソンなどを紹介してもらえるのではないか。政府や国際機関を利用することも重要。表彰制度があると、事業の重要性を社内外にアピールしやすいと思うが、どうか。

皆さんから頂いたご提案やご意見を踏まえ、REDD+によるグリーン経済の推進に向け、関係者で一層の連携を行い、その実現のための取組を実践していくことが共有・確認され、勉強会は終了しました。

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